Thursday, November 19, 2009

ひかりもの

正午のチャイムが鳴る.
「さくさーーん,今日は寿司行きましょうよ.」
「えーそんな金ないよ」
「いやいや,安くてうまい店見つけたんすよ,さくさんも魚好きでしょ,魚」
「ま,まぁな.(そんなに好きじゃないけど)」
寿司ランチに誘われたので,歩いて5分の場所に位置する寿司屋に他愛もない会話を交えながら向かった.
「へい,らっしゃい.おっ,お客さん,またいらしてくれたんですかい.」
「へっへっへ,大将の寿司が気に入りましてね.今日は,同期のさくさんも連れてきたんすよ.」
「ささっ,お連れの方もどうぞお座りください.いつものでいいですかね.」
「はい,二人前お願いします.」
私が一言も発してないのに,注文が終わっていた.
周りを見渡すと,狭い店内に10席ほどあり,その席のほとんどが埋まっていた.
私たちは,真ん中の席に並んで座っており,その右隣,ちょうど私の右ひじが当たるような位置に,仏頂面の男が座っていた.
なんか感じ悪そうな人だな,と思った時,仏頂面の男と目があった.
げげ,と思い,何でもないふりをするために,左に座る友人に話しかけた.
「ところで,好きな魚は何ですか.」
「あー,なんだろうな.サバかな.」
「サバか.ひかりものが好きなのか.私も結構ひかりものすきですよ.ひかりもの.」
そう言った瞬間,右手に何か当たった感覚がした.
コト.
木材を叩いたような暖かい音が聞こえたとともに,手元にあったお茶がこぼれた.
「あー,すみません.よごれませんでしたか.」
「・・・・・」
「すみません.大丈夫ですか.」
「・・・・・大丈夫なわけなかろう.貴様,ひかりものが好きと言ったな.こっちのひかりものはどうだぁぁぁぁ」
仏頂面の男が懐からドスを抜き,振り上げた.
「あんたーー寿司屋で振り回すんじゃないよ」
気付くと,後ろに女が立っている.40歳くらいだが,肌がきれいで,なかなかどうして美しい.
「あ,姉さん,すまねぇ.ついカッとなって.」
「わかればいいよ.あんたもごめんね.うちのもんが迷惑かけて.」
「いえいえ,悪いのはボクですし.お茶をこぼしてしまったので.」
「あ,姉さん,こいつひかりものが好きだって言ってましたよ.」
「なにぃ.じゃ,なにかい.こいつに喧嘩売られたっていうのかい.坊主やぁ,あんまりなめんじゃないよ」
「ひ,ひえぇ」

ってことにならないためにも,寿司屋でひかりものという言葉は控えたほうがいいかもしれない.
だから,サバとかイワシを指すなら,ひかりものじゃなくて,青物とか青魚とかのほうがトラブル少ないような気がした.
と,メンチカツ食いながら思った.

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